NFTは現在広く普及していますが、転売時に新所有者にどのような法的権利が付与されるかは不明確な場合が多いのです。NFTの基盤となる著作権や商標権の所有者は、NFTの所有者が保有すると考える権利と相反する合法的権利を主張する場合があります。本稿では、NFTと知的財産権(IP)、独占権等に関する法的問題を、最近の訴訟事例を踏まえて検討します。また、未解決の法的問題がメタバース等の次世代技術の開発に与える影響についても考察していきます。
著作権者による作品のNFT作成権
最近、ニューヨークのアートギャラリーTamarind 社は、「稲妻」または「インドのゲルニカ」として知られる長さ60フィートの壁画に基づく一連のNFTを発行する計画を発表した後、停止命令書を受け取りました。画家故マクブール・フィダ・フセイン(Maqbool Fida Husain)氏のエステートは、Tamarind社が2002年に40万ドルで故画家から購入したこの壁画の著作権を、同社が依然保持していると書簡で主張しています。Tamarind社はこれに同意せず、この購入により「すべてのデジタルおよびオフラインメディアを含む、アートワークのすべてまたは一部を「展示、マーケティング、複製、再販する」ための独占的、世界規模のロイヤリティフリー・ライセンスが付与されたと主張しています。
Tamarind社は、停止命令からの救済を求めて、2022年1月21日にニューヨーク連邦裁判所に、故フセイン氏の壁画に基づくNFTの作成継続ができるとする宣告的判決を求める訴状を提出しました。この訴訟の中で、Tamarind社はフセイン側がもはや作品や関連する知的財産の所有者ではなくなることに同意したとしています。
この訴訟は現在も係争中です。
商標権者によるNFT作成権
Tamarind/Lightning事例は、IPクリエイターが著作権や商標権を買い手に譲渡したか否かが焦点となっていますが、他のケースでは、買い手が明らかに商標権者の承諾を得ていないIPに基づいてNFTをミンティングすることがありました。例えば、米国の大手スポーツウェアメーカーであるナイキは、靴やストリートウェアなどのNFTを販売するオンライン・リセール・マーケットプレイス「StockX」を商標権侵害、商標権の希釈化などで提訴しました。同様に、エルメスは、バーキンの商標を侵害するNFTがあるとして、メイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild)氏を提訴しました。このような無断使用は、商標権者のNFTの権利に関する重要な問題を提起します。NFT市場が拡大を続ける中、商標権者は、自らの知的財産を保護し、商標を描写、或いは基にしたNFT商品化の独占権を主張する手段を講じるようになってきています。
ベネルクス知的財産条約は、商標権者に対し、第三者が同一または類似の商品および/またはサービスに、同一または類似の表示を使用することを禁止する権利を認めています。デジタル産業や多様な業界の関係者にとって、第三者が無断で商標を使用し、メタバース、拡張現実、ビデオゲーム、デジタル音楽・芸術、収集品、またはNFT関連に分類される商標を登録すると、商標侵害が発生する可能性が高いことを意味します。しかし、NFTはごく最近開発されたものであり、日々新しいユースケースが出現しているため、デジタル環境に関連する業界で商標を登録している企業はほとんどありません。現在、判例も決定しておらず、混乱に拍車がかかっています。商標権者は、自社のIPを完全に保護するために、メタバース、仮想空間、デジタルアート、NFTに関連する商品やサービスを包含する商標を出願する必要があります。
IP以外の申し立て
最近話題になったある事件は、NFTをめぐる権利の連鎖に疑問を投げかけています。Free Holdings vs. McCoy裁判では、原告のカナダ法人が、史上初のNFTとされるアーティスト、ケヴィン・マッコイ(Kevin’s McCoy)氏の「Quantum」を所有していると主張しています。Free Holdings社は、オークションハウスであるサザビーズが147万ドルでNFTを落札した際、その所有権を誤って譲渡したとし、ニューヨークの南部地方裁判所に提訴しました。Free Holdings社は、マッコイ氏が所有権を更新しなかったため、NFTの権利を取得したと主張しています。マッコイ氏がQuantumをミンティングしたブロックチェーンでは、250日ごとに所有者の権利を更新する必要がありますが、マッコイ氏は所有権を失効させ、NFTは何年も所有権が主張されないままだったとFree Holdings社は述べています。
この事件は、ブロックチェーン技術を使用してミンティングされたものを所有することは真に何を意味するのか、という問題を初めて取り上げたものとして重要です。ブロックチェーン技術は、永続的で議論の余地のない記録台帳を提供するとされていますが、その技術の複雑さが事態を混迷させています。ブロックチェーン間のコンテンツや所有権の譲渡に関する規約に一貫性がないため、混乱はさらに深刻化しています。今回の判決により、長年の課題であった判例が生まれ、ブロックチェーンに関連する所有権の見解が裁判所により確立されることになるでしょう。また、ブロックチェーンが、その支持者の多くが主張するようなゲームチェンジャー的イノベーションであるかどうかも明らかになるでしょう。
結論
これらの裁判は、ブロックチェーン技術やメタバースにおけるデジタル所有権の証明の有用性に大きな影響を与える可能性があります。NFTのミンティングは著作権者の独占的権利なのか、NFTはいつ、どのように商標権者の権利を侵害するのか、NFTのミンティングはIPを守る伝統的法理に反するのか、などの疑問に答えることが期待されています。もちろん、これらの裁判の中には、法的指針を示すことなく決着するものや、将来の裁判の一般的参考資料として使用できないような判例で解決されるものもあります。この裁判の結果にかかわらず、ブロックチェーン、メタバース、デジタル資産分野の企業は、定期的にNFTやその他の新興技術を専門とする弁護士や法律事務所に相談し、これらの分野におけるIPを取り巻く複雑さや技術について最新の法的アドバイスを受けることが必要です。
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