ビデオゲームが単なる娯楽の領域を超えてから久しくなります。没入感のある世界、魅力的な物語、複雑なメカニズムによって、コミュニケーションや表現のための強力なプラットフォームへと進化を遂げました。しかし、このような影響力を持つ能力は、ビデオゲームがプロパガンダの手段として利用されるという、独自の難問も提起しています。本稿では、ビデオゲームとプロパガンダの興味深い相関関係を掘り下げ、ゲーム開発者やプラットフォームが仮想世界内で特定のイデオロギーの拡散を許容した場合に直面する法的影響について考察します。
ビデオゲームが洗練されたコミュニケーションツールであることは、研究によって実証されています。イアン・ボゴスト(Ian Bogost)氏は、「手続き上のレトリック 」という概念を説明し、ゲームはそのルールや仕組みを通じて、プレイヤーに特定のイデオロギーへの微妙な影響を与えることができると説明しました。
その結果、ビデオゲームは単なる娯楽ではなく、複雑な政治的ストーリーや イデオロギーを伝えることのできるプラットフォームとして認識されるようになりました。また、軍事や戦略をテーマとしたゲームは、特にプロパガンダ的な用途に使われやすいと指摘する他の著者もいます。これらのジャンルは、紛争や権力のダイナミクスに焦点を当てているため、特定の世界観や価値観を埋め込むための肥沃な土壌となるのです。
ビデオゲームがプロパガンダを拡散する能力は広く認知されていますが、それがプレイヤーの態度や行動にどの程度影響を与えるかはまだ議論の余地があります。しかし、ビデオゲームが一層普及し、高度な技術を導入するにつれて、プロパガンダの道具としての潜在的な役割は高まり、開発者やプラットフォームがゲームにプロパガンダを取り入れる際に負うリスクは無視できないものとなっています。
ビデオゲームは、修正憲法第1条による保護を享受していますが、わいせつなコンテンツや暴力を扇動するコンテンツには例外が存在します。プロパガンダは、しばしば特定の政治的または社会的アジェンダを推進するために採用されますが、憎悪や暴力を扇動する場合は規制される可能性があります。その結果、そのようなプロパガンダを容認する開発者やプラットフォームは訴訟の対象となる可能性があります。さらに、中国のように国家安全保障を脅かすビデオゲームのプロパガンダを明確に禁止している国もあり、その場合、罰金から禁固刑までの罰則が科せられます。
潜在的な法規制問題の例としては、以下が挙げられます:
- 特定の人々に対する暴力を助長するゲームは、ヘイトスピーチとみなされる可能性があり、特定の法域では禁止されています。
- 有害な政治的アジェンダを推進するゲームは、名誉毀損や選挙法違反に該当する可能性があります。
- 政府や政党が宣伝目的で資金提供したゲームは、国によっては禁止される場合があります。
ゲーム会社は、管轄区域に適用される法律を遵守するため、法律顧問を要請するべきでしょう。ビデオゲームが影響力のあるメディア形態として成長し続けるにつれ、そのプロパガンダへの可能性と、関連する法的影響を理解することがますます重要となります。
ビデオゲームにおけるプロパガンダの歴史
プロパガンダとビデオゲームの接点は、複雑で多面的な領域と言えます。長年にわたり、さまざまな著者がビデオゲームにおけるプロパガンダの具体的な事例を検証するために徹底的なケーススタディを行ってきました。こうした調査は、異なる団体がビデオゲームという魅惑的なメディアをどのように活用し、自らのアジェンダを推進しているのかについて、貴重な洞察を提供してくれます。
さまざまな組織がビデオゲームを自らのプロパガンダの手段として利用しています。米国、ロシア、中国、イランなどの国家政府はもちろん、ヒズボラのような非国家主体も、ビデオゲームの説得力を認識し、自らのイデオロギーを広めるために利用しています。
テクノロジーの進歩は、プロパガンダ戦略を形成する上で重要な役割を果たしています。初期のビデオゲームは、限られたグラフィック機能と単純な物語で、初歩的な形態のプロパガンダを提供していました。しかし、Web3が進化するにつれ、ゲーム内のプロパガンダも洗練されてきています。
高度なグラフィック、複雑なストーリー、没入感のあるゲームプレイを備えた今日のビデオゲームは、プロパガンダにとってはるかに説得力のあるプラットフォームを提供しています。これらのゲームは、イデオロギー的メッセージを巧妙に埋め込み、詳細で魅力的な物語を作り上げることができるのです。さらに、オンライン・マルチプレイヤーゲームは、世界中のプレイヤー間のリアルタイムの対話を可能にし、プロパガンダ的な影響力のより強力な手段を提供します。しかし、ビデオゲームにおけるプロパガンダの可能性が高まるにつれ、法規制による監視の必要性が高まってきます。ビデオゲームにおけるプロパガンダの法的歴史はまだ進行中であり、世界中の裁判所や立法機関が、この新しいメディアがもたらす独自の課題に取り組んでいます。プロパガンダの定義、その潜在的な害悪、米国における表現の自由の保護範囲といった問題は、検証されるべき法的問題のほんの一部に過ぎません。
プロパガンダはいかにしてビデオゲームに浸透するか
ビデオゲームがプロパガンダのプラットフォームとして機能する可能性は、世界中のさまざまな組織によって認識され、利用されています。彼らはメッセージを広めるために多様な戦略を採用しています。以下はその一例です:
- 自らの資金提供-特定のイデオロギー的内容を確実に盛り込むために、組織がゲーム開発に資金を提供することがあります。米陸軍が制作した『America’s Army(アメリカズ アーミー)』は、その典型的な例といえます。リクルート用として開発されたこのゲームは、軍隊体験のシミュレーションを主に扱い、陸軍の価値観や理念を巧妙に支持しています。しかし、このアプローチはアメリカに限ったことではありません。急成長しているイランの国内ゲーム産業では、『Darinoos』のような企業が国際的なPC用ゲームをローカライズし、イランの視点に有利なプロパガンダ的コンテンツを挿入しています。
- 間接的な影響-政治的組織は、しばしば彼らにとって望ましいテーマを開発者がゲームに組み込んだ際に、税制優遇や補助金のような金銭的優遇措置を提供するという間接的手段で、ゲームコンテンツを操作することがあります。例えば中国は、Riot Gamesの『Valorant」やEpic Gamesの『Fortnite』のような人気ゲームにプロパガンダ的なコンテンツを忍び込ませているとして非難されています。中国の大手テック企業であるテンセントは、Riot GamesとEpic Gamesに多額の出資をしており、イデオロギー干渉の懸念が生じています。
- 既存のゲームの改造-もう一つの方法は、既存のゲームにプロパガンダ的なコンテンツを盛り込み改造するもので、多くの場合「MOD」やカスタムシナリオによって行われます。ロシアは、『Minecraft』や『World of Tanks』のような人気ゲームにこの手法を取り入れていると報じられています。これらのゲーム内で政治的ストーリーを反映させる環境を作ることで、ロシアの宣伝機関は世界中に散在する聴衆に広く働きかけることができます。このような改造は無害に見えるかもしれませんが、公共の議論の誠実性に潜在的な脅威をもたらします。人気のある娯楽プラットフォームを通じてプロパガンダを広めることで、これらの組織は、さまざまな政治問題に対するプレイヤーの認識や態度を巧妙に形成することができるのです。
これらの戦略は、デジタル時代におけるプロパガンダの複雑さを強調しています。ビデオゲームの人気が上昇し続ける中、イデオロギー拡散のプラットフォームとしての潜在能力を過小評価することはできません。これは、規制機関や社会にとって重大な課題をもたらすものであり、規制当局は、言論や創作表現の自由を侵害することなく、こうしたコンテンツを監視・管理するという難題に直面しています。一方で、社会はデジタルコンテンツのより賢明な消費者へと進化しなければなりません。エンターテイメントに埋め込まれた潜在的なプロパガンダ・メッセージを認識し、批判的に評価できる能力を備える必要があります。
ゲーム会社・プラットフォームにとっての法的影響
ビデオゲーム内での政治的プロパガンダの普及により、開発者が考慮すべきいくつかの法的問題が提起されています:
- 知的財産権−プロパガンダ目的で実在の団体や シンボル、イベントをゲームに組み込むことは、知的財産権を侵害する可能性があります。例えば、政党のロゴや有名人の肖像を無断で使用すると、商標権や著作権の侵害に基づく訴訟に発展する可能性があります。さらに、パブリシティ権に基づき、個人は自分のアイデンティティの商業利用を管理する法的権利を有しています。したがって、プロパガンダ的文脈において個人の肖像を無許可で使用することは、訴訟を招きかねません。
- 名誉毀損−ゲームが虚偽の情報を用いて個人や団体を有害に描写する場合、名誉毀損とみなされる可能性があります。多くの管轄区域では、不法行為(Restatement Second of Torts)により、侵害された当事者は、たとえその内容が明示的に損害を与えることを意図していなかったとしても、名誉毀損でゲーム開発者を訴えることができます。典型的な事例は、パナマの元独裁者であるマヌエル・ノリエガを描いた『コール オブ デューティ ブラックオプスII』に対するアクティビジョン・ブリザードへのマヌエル・ノリエガの名誉毀損訴訟です。アクティビジョン・ブリザードは最終的に勝訴しましたが、多額の訴訟費用を支払う結果となりました。
- 規制の遵守−多くの国では、政治的プロパガンダ、特にヘイトスピーチや暴力の扇動に関する厳しい規制があります。このような法律に違反すると、罰金や刑事告訴などの厳しい罰則が課される可能性があります。例えばドイツでは、ナチスの象徴の使用は厳しく規制されていますが、ビデオゲームは明示的に除外されています。さらに、Entertainment Software Rating Boardのような機関は、物議を醸すようなコンテンツを含むゲームに対し、年齢制限を設けたり、分類を拒否したりすることがあります。これは、ゲームの市場性と経済的成功に大きな影響を与える可能性があります。
ビデオゲームにプロパガンダを組み込むことは、開発者にとって深刻な法的影響をもたらす可能性があります。このようなリスクを軽減するために、開発者はプロパガンダと見なされるようなコンテンツを作成する際には、法的助言を求めるべきです。また、関連するすべての法規制を遵守するために、厳格な社内審査プロセスを確立する必要があります。このような手順を踏むことで、開発者は自社の利益を守りつつ、魅力的なコンテンツを作成し、業界の信用と評判を維持することができます。
プレイヤー保護と言論の自由のバランス
一方では、プロパガンダはストーリーの展開や世界観を強化し、プレイヤーに没入感をもたらし、複雑な政治的メッセージを伝えることができます。しかし、それはまた、誤情報を広め、暴力を扇動し、不寛容を助長することも事実です。法的リスクや風評被害を軽減するために、企業はゲームにプロパガンダが含まれていることをプレイヤーに知らせ、それを明確にラベル表示し、プレイヤーがその目的や潜在的な偏見を理解できるような記述を盛り込み、プレイヤーがそれにさらされないように選択できるオプションを提供するべきです。
クリエイティブな表現を守りながら、有害なプロパガンダからプレーヤーを保護するバランスを取ることは、計算された微妙な戦略を必要とする難問です。
ゲーム開発者はしばしば、彼らのゲームは政治的声明を意図したものではなく、むしろ娯楽と理解を提供するものだと主張します。『Call of Duty』の開発会社トレイアークのマーク・ラミア所長は、彼らのゲームは芸術と娯楽であり、政治的な声明ではないと主張しています。同様に、『Six Days in Fallujah』の開発社のCEOであるピーター・タムテ氏は、このゲームの目的は共感と理解を深めることであり、戦争について政治的な主張をすることではないと述べています。
このような主張にもかかわらず、うまく設計されたゲームで推進されるイデオロギーは、明示的な政治的コメントがなくても、戦争や軍事行動などのテーマに対するプレイヤーの態度を形成することができます。このようなゲームはしばしば、理想化された軍事行動というファンタジーを提供し、現実世界の恐怖や惨状を覆い隠すことで、戦争に対する特定の考え方を定着させます。
結論として、ビデオゲームは、表現とエンゲージメントのための革新的なプラットフォームを提供する一方で、専門的な法的助言が必要な複雑な法的課題を提起します。Web3専門の弁護士は、ビデオゲームにプロパガンダなどセンシティブなコンテンツを組み込むことの法的意味合いについて助言を提供することで、ビデオゲームの開発者やプラットフォームを保護することができます。これには、国内法および国際法の遵守、憲法修正第1条の権利の保護、商標に関する問題への対策などが含まれます。また、インタラクティブメディアの使い方や、ビデオゲームが政治的主張に影響を与える可能性についてもアドバイスすることができます。
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