法廷ではサイズは重要: 「Trump too small」著作権論争のゆくえ

法廷ではサイズは重要: 「Trump too small」著作権論争のゆくえ

法廷ではサイズは重要: 「Trump too small」著作権論争のゆくえ

1000 648 Yusuke Hisashi

政治的言論に知的財産権の保護を認めることは、言論の自由を促進することなく、むしろ制限する可能性があるのでしょうか。

この問題に関して、連邦最高裁判所がVidal v. Elsterの判決を下す際、憲法修正第1条、商標、プライバシーおよびパブリシティ権に関する興味深い点を提示しています。論争の焦点となったのは、米国特許商標庁(USPTO)が「Trump too small」というフレーズに対する商標権の登録を拒否した正当な権利があったのか、また、その拒否が、出願人の表現の自由を侵害したのか、という点です。最高裁の判決は、商標法と憲法修正第1条の権利の均衡に重大な影響を及ぼすとともに、現代の社会状況における表現の自由の保護範囲と、その制限をめぐる更なる議論を巻き起こすことになります。

原告の弁護士は、この訴訟を、政治的メッセージや批判を封じ込めようとする特許商標庁による「正当化できない」試みであるとしています。一方、特許商標庁は、そのような表現を阻止しようとするものはなく、原告が商標を通じてそのフレーズを独占することを防ぎたかっただけだと反論しています。

その経緯

2016年の討論会での共和党大統領候補マルコ・ルビオ(Marco Rubio)上院議員と最終候補ドナルド・トランプのやりとりを利用しようと、スティーブ・エルスター(Steve Elster)弁護士は2018年1月、Tシャツや帽子などの衣料品に使用するための商標として「Trump Too Small」を商標申請しました。このフレーズは、ルビオ議員が「トランプは大男なのに手が小さすぎる」と主張したことに由来します。その意味するところは明らかですが、ルビオ議員は急いで、手が小さいということは、他の身体的特徴というよりも、むしろ信頼性の欠如を示しているのだと付け加えました。

エルスター氏は、このフレーズはトランプの未熟な大統領政策や人格を評していると主張しています。この申請により、最高裁による最終判決に至るまで、一連の相反する判決が動き出しました:

  1. この皮肉なユーモアは、特定の生存する個人を指し、本人の書面による同意なしに使用されたという理由で、特許商標庁はエルスター氏の申請を却下し、その決定は庁内の商標審判委員会によって支持されました。
  2. エルスター氏は連邦巡回控訴裁判所に控訴し、2022年2月にその判決が覆されました。同裁判所は、プライバシーとパブリシティ権を保護するという政府の利益は、公人を批判するというエルスター氏の実質的な憲法修正第1条の権利を上回るものではないと判断したためです。
  3. 特許商標庁が最高裁に上告。

対立する基本的権利

最高裁判所が商標法と憲法修正第1条の微妙なバランスを検討する際、その判断は、商標、サービスマーク、不正競争について規定する連邦法、ランハム法第2条(c)の解釈にかかっていると思われます。ランハム法第2条(c)は、生存する個人を特定する商標を本人の同意なしに登録することを禁止しています。この裁判の結果は、知的財産法および表現の自由を取り巻く広範な議論に深い影響を与えるでしょう。

  • 米国特許商標庁の見解 ― 同庁と商標審判委員会は、同法第2条(c)は表現の自由を侵害しないと主張し、同法は、「個人のプライバシー権とパブリシティ権を保護し、消費者を情報の欺瞞から保護するという2つの国益を達成するために設計されている」と主張しました。本件の極めて重要な側面のひとつは、トランプのプライバシー権とパブリシティ権です。この登録を認めることは、たとえその個人が米国大統領であっても、本人の同意なしに「特定の生存する個人」を識別する標章の登録を禁止する規定に違反することになります。

    パブリシティ権は、金銭的利益のために個人の氏名および肖像を無許可で使用されることから保護する権利です。プライバシーの権利から派生したこの権利は、デジタルメディアの時代における個人のアイデンティティ保護に不可欠なものとなっています。しかし、この事件は、特に政治的批判が関与しており、こうした権利と憲法修正第1条との間の線引きをどこで行うべきかについて、興味深い問題を提起しています。
  • エルスター氏と巡回裁判所の見解 ― 控訴審において、連邦巡回控訴裁判所は、当該商標が政府高官や公人を批判するものである場合、同法第2条(c)は、憲法修正第1条に違反すると結論付けました。「政府は、エルスター氏の商標に込められた政治的批判に与えられる憲法修正第1条の保護を超える妥当な公共的利益を有していない」と同裁判所は述べています。

    ティモシー・ダイク巡回裁判官は、その判決の中で説得力のある主張を述べました。同裁判官は、トランプ大統領のような公人のプライバシーを保護する正当な利益は存在せず、トランプ大統領を「アメリカ人の生活における最も私的でない名前」と表現しました。さらに、名前の商業利用を保護するパブリシティ権が「公人を批判から守ることはできない 」と述べました。

判例

特許商標庁による最高裁に対する審理申立てでは、本件は、他の2つのランハム法に基づく判決で未解決の問題に答える機会を与えるものであると主張しています。Matal v. Tam(2017年)において、裁判所は、商標が特定の人々を「誹謗中傷」する可能性があることを理由に商標登録を拒否することは、憲法修正第1条に違反するとの判断を下しました。裁判所は、誹謗中傷の可能性はそれぞれの視点に基づくものであり、政府が表現を制限する根拠にはなり得ないと判示しました。

また、裁判所はIancu v. Brunetti(2019年)でも同様の判断を下し、「不道徳」または「スキャンダラス」な内容の禁止は憲法修正第1条に違反すると判示し、政府は内容の価値に基づいて言論を差別することはできないため、より説得力のある理由を示す必要があると述べました。

下級裁判所は、公人のパブリシティ権の特定の使用が憲法修正第1条によって保護されるかどうかを判断するために様々な法的テストを適用しています:

  • ロジャース・テスト(Rogers Test):フレッド・アステア氏と有名なダンスコンビで知られているジンジャー・ロジャース(Ginger Rogers)氏が、Rogers v. Grimaldi (1989年)訴訟を起こしました。米国第2巡回区控訴裁判所は、公人の氏名または肖像の使用が許されるためには、1)基礎となる作品と関連性があり、2)作品の出所や内容について明示的に誤解させないことが必要であると判示しました。
  • 主要使用テスト(Predominant Use Test):ミズーリ州最高裁は、Doe v. TCI Cablevision(1999年)でロジャース・テストの定義を拡大しました。この判決では、コミックブックシリーズ「Spawn」がトニー・ツイスト元NHL選手の肖像を主に商業目的で使用し、有名人のパブリシティ権を侵害したと判断されました。しかし、その主な使用が表現的である場合は、憲法修正第1条によって保護される可能性が高くなります。
  • 変容的使用テスト(Transformative Use Test):Campbell v. Acuff-Rose Music(1994年)で2 Live Crewが歌った 『Oh, Pretty Woman 』という曲のパロディをめぐり発生したテストです。最高裁は、有名人の肖像を単に商業目的で利用するのではなく、それに新たな要素を付加するような新しい作品は、憲法修正第1条により保護される可能性が高いという判決を下しました。

Campbell判決にもかかわらず、最高裁判所は、有名人のパブリシティ権の使用が憲法修正第1条によって保護されるかを決定するために、これらのテストのうちどれを適用すべきかについてまだ判決を下していません。その結果、裁判所は、事案によって異なるテストを適用しています。一部の裁判所は、2つまたは3つすべての判決文の文言を統合したハイブリッドテストを使用しています。その選択は、多くの場合、事件の具体的な内容や管轄区域によって異なります。今回のVidal判決が判例として確立される可能性があると思われます。

影響

最高裁判所がランハム法第2条(c)を違憲と判断した場合、商標法の状況は大きく変わることになります。このような判決は、生存する個人名を含む商標の、本人の同意のない第三者による登録を認めることになり、消費者の混乱を招き、個人の評判への悪影響を生む可能性があります。

その反面、もし裁判所がこの法令を支持すれば、公人が消費者向け製品を独占し、彼らが同意した方法でのみ名前を使用できる可能性があり、批判者を事実上封じ込めることになりかねません。特に、公共の重要事項に対して大きな影響力を持つ公人に対する論評が含まれる場合、これは公共の議論を抑制し、表現の自由を阻害する恐れがあります。


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Yusuke Hisashi

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