英国政府は現在、メタバースにおける安全性とセキュリティを確保するため、オンライン安全法案(OSB)を検討しています。数カ月にわたる審議、遅延、議論を経て、4月19日に下院でOSBの第二読会が行われました。この法案は、仮想世界のユーザーにとって広範な影響を及ぼすことが予想され、新興テクノロジー企業のメタバースでの事業展開方法にも影響を与える恐れがあります。
オンライン安全法案の主要条項
OSBは、特定のインターネットサービスを、放送、電気通信、郵便サービスを管轄する規制当局であるオフコム(英国情報通信庁、Office of Communications、Ofcom )の規制下に置くことで、英国内のインターネットユーザーを保護することを目的としたものです。この法案は、Meta(旧Facebook)やTwitterなどのテクノロジー企業が、利用規約を遵守し、違法なものを削除し、有害なコンテンツから子供を守り、合法的に許可されたコンテンツであっても、大人が見たくない閲覧をオプトアウトできるようにするものです。更に、リベンジポルノ、麻薬や武器の売買、自殺を助長するコンテンツなどを違法とする方針で、インターネットやメタバースを規制する野心的な試みで す。この法案は、2020年12月の「オンライン有害情報白書(Online Harms White Paper)」の発表に続き、2022年3月に国会に提出されました。OSBの主な規定と、それが新興テクノロジー企業へ及ぼすかもしれない影響は以下の通りです。
子供と未成年者の保護
OSBは、ポルノ、人種差別的な暴言や中傷、暴力の美化、犯罪の影響、その他身体的、感情的、心理的に有害な影響を及ぼす可能性のあるコンテンツから子供や未成年者を保護するものです。OSBは、オンラインプラットフォームに対し、サイバー脅威から家族を守るための技術の強化を要求しています。特に、ポルノサイトや性描写のあるコンテンツを扱うプラットフォームに対し、児童や未成年者をブロックするよう求めています。OSBの未成年者・子供の保護に関する規定は、子供向けコンテンツやサービスを提供する新興テクノロジー企業に、さらなる規制負担がかかることを示唆しています。
虚偽の広告
OSBは、オンライン広告規制を対象とした広範な改革を導入し、有害、不快、誤解を招く広告を規制するため、オフコムに対してより広範な権限を付与しています。更に、詐欺を取り締まるため、インフルエンサーに対して、製品やサービスの宣伝の対価として報酬を得ているかどうかを開示することを義務付けています。最後に、ソーシャルメディア企業や検索エンジンに対して、プラットフォーム上での詐欺や不正行為を防止するための追加的な義務を課しています。これらの規定は、犯罪者が有名人や企業になりすまし、個人情報を盗んだり、不正な金融投資を行ったり、銀行口座に不正にアクセスしたりする最近の傾向を受けて導入されたものです。
オフコムの取締り権限
OSBは、デジタル領域の安全性を確保するために、オフコムに対しハイテク企業への情報・データ要求権など、幅広い権限を与えています。その中には、オンラインプラットフォーム、インタラクティブゲーム、ソーシャルメディアサイト、マーケティング担当者が、どのコンテンツを選択し、特定のビューアーに表示するかを決定する際に、どのようにアルゴリズムを使用しているかの説明任務が含まれ、ユーザーを被害から保護するためにどのような措置を取っているかを評価することができるようにしています。また、この法案では、オフコムの代表者が企業の敷地内に物理的に立ち入り、データや設備にアクセスしたり、企業の従業員にインタビューを行ったり、ユーザーの安全を守るための企業の取り組みについて外部評価を求めたりすることができるようになります。さらに、オフコムは、企業の幹部が虚偽または不完全な情報を提供したり、データを改ざん・破棄したり、検査権限の行使を妨害・遅延させた場合、その企業に対して措置を講じる権限をもつようになるとされています。唯一の注意点は、厳密に定義された例外が適用されない限り、オフコムは企業の同意なしにデータを共有・公開することは許されないということです。また、オフコムは、その権限が適切に行使されることを保証する責任を負っています。このようにオフコムには幅広い権限が与えられているため、OSBの遵守を徹底することがより一層重要となります。
適応除外
重要なのは、OSBの規定は、ニュースサイト、一部の小売サービス、一部のイントラネットサイト、ビジネス電子メールプラットフォーム、電子メールサービスプロバイダなど、ユーザー生成コンテンツをホストする特定のサービスには適用されないということです。つまり、テック企業は自社のプラットフォームからニュース関連コンテンツを削除する義務はありません。表向きは言論の自由への譲歩ですが、この免除は、政府が「有害」と見なす言論をケースバイケースで判断することに委ねられています。その理由は、ユーザーコンテンツをホストするサイトが、ヘイトスピーチ、いじめ、フェイクニュースを扱うOSBの規則に抵触することを恐れて、メッセージを過度に検閲することを避けるためです。
英国の児童委員(Children’s Commissioner )や全英児童虐待防止協会(National Society for the Prevention of Cruelty to Children)からイングランド・プレミアリーグまで、多くの人がこの法案を支持しています。しかし、OSBのいくつかの構成要素には批判的な意見もあります。未成年者の保護に関する規定は、「現実問題に十分に対応できていない 」という理由で批判を浴びています。批評家たちは、法律の範囲を拡大し、パンくず行為(加害者が違法コンテンツへの痕跡をネット上に残し、潜在的な被害者を誘い出すこと)などを含めることを政府に提案しています。さらに、OSBは少女や女性を対象としたオンライン暴力や虐待から保護するものであるべきだとも主張されています。
OSBは、「ユーザー間サービス」や「検索サービス」に該当する零細、中小、大企業を不当にターゲットにしているという指摘もあります。この法案は、これらの企業に不公平な規制負担を課し、コンプライアンス関連の高額なコスト負担を強いるというのです。英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が実施した影響評価によると、約18万社のプラットフォームがこの法案の適用範囲に含まれるといいます。同報告書によると、これらの企業は法案の要件に「慣れる」ために960万ポンドから1750万ポンドを費やす必要があるといいます。
結論
OSBは広範な法律であり、違反した場合には多くの罰則が課されます。罰金の上限は、1800万ポンドまたはその企業のグローバル年間売上高の10%のいずれか高い方の数字に設定されています。更に、プラットフォーム所有者は、OSBを遵守しなかった場合、禁固刑に処される可能性があります。新法は複雑かつ厳罰であるため、新興テクノロジー企業はこの動向を注視し、早い段階で適格な弁護士に相談して、コンプライアンスを確保し、高額な執行措置のリスクを軽減することが必要です。
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