ビットコインは世界で最も多く流通し確立された暗号通貨であるが、この成功の維持を妨げる多大な脅威が依然存在する。ビットコイン全体のブロックチェーンが使えなくなり、そのためにビットコイン暗号通貨の価値がなくなってしまうという恐れもある。ビットコインが存在し続けるために、このような想定される脅威を克服できるか否かが問題である。
スケーリングソリューション
ビットコイン専門家の誰もが承知している通り、ビットコインブロックチェーンの規模拡大(スケーリング)は、ブロックチェーン自体の拡大ではなく、セカンドレイヤーと呼ばれる別のスケーリングソリューションを通して行われる。ブロックチェーン自体の容量いっぱいまでは使用せず、より高い取引処理能力を実現しながら、ネットワーク上での取引のセキュリティも提供できるソリューションを求め、これまでに多大な開発努力が払われてきた。その中で最も有名なのは、ビットコインユーザーに素早く低コストのペイメントを提供すると謳っているライトニングネットワークだ。しかし最近の調査によると、過度の集中化と適切なプライバシー保護の欠如が訴えられているなど、ライトニングネットワークのインフラに欠陥があることが明らかになっている。
プライバシー保護やセキュリティに加えてスケーラビリティも提供できる適正なソリューションがなければ、ビットコインのネットワークは限られた取引数に制限され、成長は困難で、いかなる種類の通貨としても利用に適さないものとなるだろう。
量子コンピューティング
ビットコインのセキュリティは、非常に複雑な数学的な問題解決に自身(自社)の計算能力を活かしている世界中のマイナーに依存している。コンピューターの能力が高ければ、ブロックチェーンのブロック正確に解く可能性が高くなり、あるマイナー(またはマイナーの共同体)がブロックチェーンを確保するための計算能力の50%以上を保有していれば、理論上そのマイナーはそのブロックチェーンを偽造取引に変更することができるのである。
このことから、量子コンピューティングは非常に大きな潜在的問題と言えるだろう。量子コンピューターは並外れた処理速度を備えているため、ビットコインブロックチェーンにおいて、適切にマイニング力の大部分をコントロールするのは容易だと考えられる。この脅威は切迫したものではないが、日に日に現実味を帯びてきている。Googleが独自の量子コンピューターを構築したと発表したのは最近のことだが、それまでは不可能だった数学的方程式を解く能力を備えているという。ビットコインブロックチェーンは、ブロックチェーン発掘のために設計された特定用途向け集積回路(ASIC)が開発されて利用できるようになったが、量子コンピューティングに取って代わられるのを避けるためには、さらに改良が必要だ。
コーディングにおける脆弱性
可能性は非常に低いが、ビットコインブロックチェーンのコーディングには、ブロックチェーンが攻撃されやすくなる脆弱性が存在する。ビットコインにおいては、実際にこの問題が発生したことがある。最近では、ネットワークの大部分に影響を与えかねないDoS攻撃によるバグがシステム内に発見されている。このバグの一部を使って追加ビットコインを印刷し、暗号通貨に規定されている通貨ポリシーを完全に覆してしまう可能性があった攻撃だ。ビットコインのライバル、ビットコインキャッシュのコーディングには、その暗号通貨の安全な使用をほぼ不可能されてしまうような脆弱性があり、ビットコインの開発者が指摘しなければ、この脆弱性に気付かなかっただろう。
コーディングの脆弱性やエラーの問題は、このような点があげられる。不具合が発覚するまでその脆弱性の存在に気付かないのである。さらにこの不具合は時間が経てばなくなるというものではない。ビットコインが長く存在すれば、攻撃者がコードを調べ、攻撃可能な脆弱性をみつけようとする動機も増大する。
ボラティリティ
不換通貨はその日々の購買力をユーザーが把握できるため、広く受け入れられている。その価値はインフレその他の要因により時間の経過とともに変化するが、その変化は非常にゆっくりでわずかなもので、結果的に徐々に増加する。
ビットコインが一般に使用される通貨として成功するためには、自分のビットコインの価値は短期間では大きく変動しないとユーザーが確信できるよう、その価格がある程度の安定性に到達しなければならない。ビットコインは一般に知られるようになってからわずか3年の間に、その価格が$1,000と$19,000の間を上下している。1日で10%以上変動する可能性もあり、真の価値を正確に評価することは不可能である。
取引手数料
通常は気がつかないかもしれないが、クレジットカードを使う度にその取引を実行するためのコストが発生する。ビットコインのブロックチェーンも同様である。ビットコインの取引手数料は、マイナーによるネットワークセキュリティ確保を奨励するが、多くの人々にブロックチェーンを使用するのを思い止まらせてしまう要因でもある。
クレジットカードの取引手数料は取引金額によって異なるが、ビットコインの取引手数料は均一だ。わずかな手数料だけで$100万のビットコイン取引をしたい人にとっては魅力だが、日々の購買には最適とは言えない。ビットコインの手数料の額は、どれだけ速く取引したいかによって異なる。例えば、現在のビットコイン取引1回あたりの料金は$0.28程度だが、次のブロックで取引を採掘する(取引をより迅速に行う)場合は約$0.50となる。これだけ見れば大した額ではないように思えるが、コーヒー一杯だけの取引であったらどうだろう?$2のコーヒーに対してこれだけの手数料、つまり少なくとも10%の取引手数料というのは非常に高額である。
ビットコインの均一手数料モデルは多額の取引には適しているが、普段利用する貨幣としては現実的ではない。ビットコインは、取引手数料モデルを変更するか、もしくは普段頻繁に利用する通貨として経済的に理にかなったレベルまで手数料自体を引き下げる必要がある。
使いやすさ
暗号通貨革命と騒がれて数年が経つが、ビットコインの使いやすさは数年前と変わらない。ビットコインは、どこでもどんな場所でも利用できるグローバル通貨として認められてきたが、実店舗またはオンライン店舗で使えることはまれであり、従って多くの場合使用不可能と言ってもよいだろう。実際、多くの人々、特に通貨の使用が制限されている国の人々にとって、ビットコインを入手すること自体がまず難しい。ビットコインを合法的に入手できる国の人々にとっても、最初の手続きは簡単ではない。
そしてビットコインの取扱いや保管のし方にも問題がある。TrezorやLedger等のハードウェアウォレットが最も安全だと考えられるが、高額であり、外出先でビットコインを簡単に使えるというわけではない。モバイルやオンラインのウォレットの方が便利である。しかし、これにもセキュリティにおけるリスクがある。
ビットコインの使いやすさを実現するには、さらなる技術改革のほかにも平均的ユーザーの教育もより充実させる必要がある。
国家支援暗号通貨と規制
この分野において最も差し迫っているのは、中国発の脅威である。中国政府は独自のデジタル通貨の設立に向け着々と準備を進めている。ビットコインとは大きく異なり、分散型ではなく完全に国によって管理および監督される暗号通貨だ。ビットコインのこれまでで最大のライバルになると考えられる。
ユーザーは使いやすい通貨を求めているが、国家が支援する暗号通貨は、デジタル通貨の利便性と不換通貨の安全性の両方を提供できる可能性を秘めているため、いずれにおいても最高の通貨となるだろう。
政府による規制も世界全体でのビットコインの利用をより難しくしている。現在数か国がビットコインの使用を制限しており、一般の人々による暗号通貨の入手が意図的に困難なものになっている。もし米国や中国等の国が貨幣としてのビットコインを全面的に禁止したら、ビットコインのネットワークを破滅させることはないだろうが、ほんの一部のテクノロジーオタクや無政府主義者の間の取引を除いて、ビットコインは事実上使い物にならなくなるだろう。
内部論争
暗号通貨分野の展開に常に注目していれば気付く思うが、一部の暗号通貨と価値観念についてそのサポーター間での大きな論争が存在する。たとえそれを警告する根拠があってもビットコインは終わらせるべきだと考える人たちもいれば、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)コンセンサス構造、ブロックの容量、取引料金、その他の理由から、ブロックチェーンに反対する人たちもいる。
ビットコイン反対派よりビットコインのサポーター間の争いの方が、ビットコインにとって脅威となっているのだ。この事実は、ビットコインブロックチェーンのブロック容量の取扱い方についてビットコインコミュニティ内で論争が発生した数年前にも注目された。これは最終的にネットワークのハードフォークと、現在ビットコインの主要コンペティターのひとつとなっているビットコインキャッシュの誕生につながる。ビットコインコミュニティ内でのさらなる論争は続き、そのためどのビットコインが真のビットコインかについて、さらに議論が交わされるだろう。
一番が必ずしも最高ではない
ビットコインが支持される最大の根拠のひとつは、ビットコインが初のブロックチェーンネットワークであり、ビットコインをサポートするための広く強力なネットワークというメリットがあるということだ。確かにこれは真実ではあるが、現在ブロックチェーンの前に立ちはだかり、解決しなければブロックチェーンが使い物にならなくなる可能性がある脅威を完全に抑制できるものではない。ビットコインは業界第一位の地位を維持するため、ビットコインはあらゆる側面においてそのネットワークのセキュリティと使い勝手を向上させながら、国家支援暗号通貨の追撃をかわさなければならない。これができなければ、ビットコインは有効であり続けることができなくなった多くのテクノロジーの仲間入りをすることになるだろう。