今月、投機家、セレブリティ、富裕層だけでなく、多くの一般暗号投資家も暗号市場で大きな損失を被りました。ボラティリティが暗号通貨の世界を支配する中、比較的知名度の低い2つの暗号通貨コイン — アルゴリズム型ステーブルコイン「TerraUSD(UST)」と、そのガバナンストークンである「Terra(Luna)」トークンが深刻な事態に陥りました。かつて分散型金融(DeFi)通貨の中心的存在であったTerraプロジェクトが破綻したことで、アルゴリズム型ステーブルコインに内在するいくつかのシステム的リスクが浮き彫りになりました。
今年1月、このステーブルコイン・プラットフォームはルナ・ファンデーション・ガード(LFG)を設立しました。その目的は、「真の分散型経済を構築・促進するためのオープンソース・ソフトウェア及びアプリケーションの、より大きな経済主権、安全性、持続可能性を創造し提供すること」としています。その主権、安全性、安定性は、5月9日にTerraUSDの価格がペッグ価格である1ドルから1セントへと暴落したことで打撃を受けました。姉妹コインであるLunaも、2022年のピーク時から97%近くも急落しました。これらの急落は暗号通貨市場全体を揺るがし、旗手であるビットコインを含む他のコインの価値も大きく下げる原因となりました。ビットコインは過去1週間で25%、過去6カ月で50%以上下落しました。TerraUSDコインとその裏付けとなるTerra Lunaトークンは、現在は 実質上の無価値となっています。その結果、バイナンス、オーケーエックス、FTX など多くの仮想通貨取引所がTerraとLunaを上場廃止にしました。
アルゴリズム型ステーブルコインはDeFi革命とは言い難い
暗号通貨初心者には馴染みがないかもしれませんが、ステーブルコインとは、暗号通貨の通常の高いボラティリティを軽減するために、その価値が金や米ドルなどの別の資産に裏付けされている暗号通貨のことです。主要なステーブルコインには、テザー(USDT)、USDコイン(USDC)、バイナンスコイン(BUSD)、ダイ(DAI)などがあります。これらの「ビッグ4」は、合計で約1600億ドルの時価総額を持つ、最大のステーブルコインです。USDT、USDC、BUSDは、全発行済コインの裏付けとなる大量の米ドルを保有する中央集権的事業体を中心に構成されています。これらのコインを所有する投資家は、いつでも1ドルで換金できることが保証されています。一方、ダイ・ステーブルコインは、分散型自律組織(DAO)であるMaker DAOによって発行され、各コインは暗号資産の分散型ポートフォリオの担保価値によって支えられています。
TerraUSDは、ステーブルコインとして常に1ドルの価値があるように設計されていました。しかし、実際の資産担保型コインとは異なり、TerraUSDはTerraプロトコルを搭載したアルゴリズムを基盤としています。アルゴリズム型ステーブルコインと呼ばれるTerraUSDは、後述するスワップ手順を取り入れて、コイン価格の安定を試みています。このプラットフォームは、「オープンマーケット」と分散型オラクル投票を用いて、不換紙幣の価格に追随するステーブルコインを作成するとしています。アンカープロトコルに基づいており、ユーザーに対し最大20%の市場貸出利回りを提供します。
Terraプロジェクトに対する批判には、AnchorがTerraUSDとLunaトークンを人為的に支えているという懸念の声がありました。特に、20%という利回りは持続不可能であり、USTエコシステムのコインを購入する投資家を不適切に刺激していると指摘しました。Terraプロジェクトの投資家が焦り、USTの投資家がAnchorの口座からコインを引き出し始めたとき、Terraシステムの持続不可能性が確認されたのです。
Terraはなぜ崩壊したのか
TerraUSDとLunaの間に築かれた「自由市場」の均衡が崩れると、Terraは地上に急降下しました。投資家はUSTを購入し、TerraUSDと連動するAnchor口座に預けました。Anchor口座は、どの銀行が提供できるよりもはるかに高い、多くの投資信託がうらやむほどの金利がつく普通預金のような役割を果たします。Coindeskによると、購入されたTerraUSDの約75%(約140億ドル)がこれらの口座に預けられたといいます。インフレが進み、株式市場が低迷する中、20%の利息は多くの人にとって見過ごせないチャンスだったのです。
TerraUSDは、連動するLuna暗号トークンが変動しても、その価値を1ドルに維持するように設計されています。USTの価格が1ドルを超えると、Terraプロトコルは、ユーザーがLunaをバーン(焼却:供給量を減らして価値を高める)し、USTをミンティング(発行)して、1ドルの価値を維持できるようインセンティブを与えます。USTが1ドル以下になると、プロトコルはユーザーにUSTをバーンして、代わりにLunaをミンティングするように促します。Terraは、異なるTerraコイン・デノミネーション間、およびTerraステーブルコインとLunaトークン間のアトミック・スワップを可能にするマーケットモデルを採用しています。
この危機を受け、Terraプロジェクトはブロックチェーン上の取引をすべて停止し、新規取引はできなくなりました。取引再開が許可された時点で、損害はすでに生じていたのです。Terraプロトコルの欠陥により、取引所の外でLunaトークンが指数関数的にミンティングされました。疑うことを知らないLuna投資家は再びLunaを買い始めましたが、価格はさらに暴落しました。狂乱した投資家たちは、できる限り早く換金して、少しでもお金を取り戻そうとしました。多くの暗号取引所がメルトダウンのために取引を停止し、Terraプロジェクトに資金投入した強気の暗号投資家は、暗号取引所で損失を取り戻すことができなくなりました。
危機がワシントンのアクションを促すかもしれない
暗号通貨市場はここ数週間、深刻な打撃を受けています。パニックに陥った売り手がコインを売り払い、多くのコインが大幅に値を下げました。数百万人の投資家、特に小口投資家は、貯蓄や退職金の全額を失うなど、致命的な痛手を負いました。他のステーブルコインもTerraの運命によってダメージを受けましたが、その後回復しました。時価総額で最大のステーブルコインであるテザーは、95セントまで下落した後、1ドルに回復し足場を固めました。
イーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏を含む多くの暗号保有者は、上記のような不利益を被ったTerra投資家が、金銭的な補償を受けられるようになるべきであると提言しています。具体的には、ブテリン氏は、そのウォレット保有者の99.6%を占める小口のAnchor利用者が損失補償されるべきであると提案しました。その方法として考えられるのが、連邦預金保険公社(FDIC)が支援する口座を通じて、1人あたり25万ドルまでの小口口座を保護することです。ブテリン氏は、これは前例のある措置だと主張しましたが、政府による直接の規制を提唱するには至りませんでした。
1933年の世界恐慌の余波を受けて設立されたFDICは、小口の銀行口座を保証し、それらが市場の暴落によって壊滅されることを防ぐための機関です。暗号投資家は暗号市場の規制を警戒しているかもしれませんが、FDICは、特にFDICが支援する金融機関がリスクを知らない消費者に暗号資産を販売することに関して、監視の需要が高まっていることを認識しています。FDICがこれに注目したのは、2022年3月にバイデン大統領が発布した大統領令が、「デジタル資産における責任あるイノベーションの確保」を米国政府に指示し、FDICにその技術的専門性を求めたことに端を発しています。
Terraプロジェクトが明らかにしたように、暗号通貨には一般消費者が気付かないような重大なリスクが依然として存在します。今回の暗号通貨の暴落は、小口の暗号消費者の保護と、「自由市場 」のための分散型ブロックチェーン基盤通貨を維持することとの間の議論を浮き彫りにしています。米国の銀行や世界中の伝統的な金融機関が暗号市場への関与を強める中、政府による追加規制は避けられないようです。
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